本書も他著作と同じく読みにくい、
故に構造主義の原点に戻って用いられる言葉を解析すればレヴィストロースの思想に
肉薄できるのではないかと前文を置いた。

本書の冒頭にはバルザックが引用されている。「世の中には野生人しかいない、農民よ、田舎の者よ、事実を見なさい、されば物事を完璧に理解するだろう」となるか。
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LaPenseeSauvage野生の思考ポケット版
 部族民通信ホームページ   開設元年6月10日 投稿2020年6月30日
 
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蕃神(ハカミ)義男
   野生の思考 LaPenseeSauvage を読む  (人類学)2020年6月30日
 
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前文(長い。しかし読んでくれ、レヴィストロースが思考と存在をどのように解釈したかが分かると思う):

神話学第4巻「裸の男」の最終章(フィナーレ)にてレヴィストロースは自身の著述歴を親族の基本構造(第一刷1947年)、悲しき熱帯(1953年)、野生の思考(1961年)と神話学4巻(最終巻の脱稿は19709月)の4作としている。23年間の思索活動が、すべてこれらに反映されていると伝えたかったのだろう。4作以外にも著書は数えられるが、それらはそれぞれ活動の一の断面であると自ら規定している訳であり、読む側からして同じ感慨を抱く。

全て著作の内容をたどれば、いずれも4作に行き着く。4作の内容も一つの思考に収斂する。そう伝えているかも知れない。4作に絞ぼりそこに散りばめた共通項、すなわち彼が追求した思想は何か。4作それぞれの主題を洗い出して捜そう;

親族の基本構造では「未開」とされる先住民達がかくも高度な社会組織を運用していた、これが主題である。(部族民ホームサイトではPiaget批判の項を投稿)

次作の悲しき熱帯で南米先住民の精神の有様を明らかにしている。

3作目、野生の思考で人はどの様に外界を理解し、どの様に表現するかを説く。社会構造、婚姻制度などは論じられていない。人の理性の働きの様を語っている。神話4部作では人と自然の相克、文化の発現と維持、人間社会が常に孕む危機を先住民の語り口(神話)を通し説明している。

4作に共通する思想とは;

自然と文化の抗争、自然の混沌から秩序の社会への這い登り、人間社会humaniteの形成までの人と自然の葛藤と言える。人間には常に自然から逸脱するとの動機がうごめいている。動機の根底に人の知性、これをレヴィストロースは置く。

三作目、野生の思考を今回、特に取り上げる理由はこの著作にて人が自然を解析し、そこから抜けでむとす抗争をへて、その離脱する原動力に彼が秘める知性、思想を本書にて語っているからである。まさにこの作、野生の思考こそレヴィストロースの思索活動が礎であった、かく小筆が読み取っているからである。

蕃神の個人事情を若干に;

小筆は直近の投稿において裸の男フィナーレを取り上げた。その書の最終章最終の行にて
c’est-à-dire rienthat means nothing、言ってみればそれは無なのだ<。
祇園精舎の鐘、虚無にたち響くこの句を挙げて、それが彼の宇宙観として神話学紹介の最終とした。最後の言葉は無 Rien 裸の男 L'HommeNu フィナーレは6月15日投稿)

その後(6月半ば以降)に「野生の思考」を再読した。

初めて手にしたのは3年ほどの前である。つまみ読み後、その時の印象は「理解できなかった」。理由として民族誌調の記述が多く、アフリカ何々族、大洋孤島のなんとか族などと紹介されてもなじみが無く、素朴な部族頭は回転しなかったからと勘違いしてしまった。彼が用いる語、それら一つ一つの「真」の含意に理解に及んでいなかったと、今にして理解不能の原因を改めた。

3年余をかけて神話学4作を(全ページ全行を読んではいない)読み込み、幾分かはレヴィストロースの思考に近づいたから、今はそれなりの理解かも知れぬが彼の思考を読めている、かもしれない。あわせて先達各氏の論評、書評を得むとしサイバー空間を渉猟した。しかしまともに「野生の思考」を紹介している文叢は見つけられなかった。いずれも断片的、聞きかじりあるいは読み盗み、その程度の書評しか探せなかった(bricolage寄せ集め、なる語へのただならぬ執着が一例)。よって私なりの理解をグーブログ(およびホームサイト)にて紹介し、訪問者様先輩各位の批判を受けるとした。

取り上げるのは第1章「具体科学」 第2章「トーテム的分類の論理」であります。全巻は9章となりますが、これだけに限定した理由は12章を通して人の思索の様態、その展開の具合の様の分析として一貫性が読めるためです。2章以降はこの分析の応用編であり、かつ民族誌記述が頻繁に交じるから小筆には難しい、人類学指向の学生には向く。さらに全章の紹介に立ち入ったら、小筆能力の貧弱が超えられてしまう。始まったら終わらない、文筆悲惨に踏みこむを予想する。まあ、いずれ全章の紹介にも立ち入るつもりではある(2021年であろう)。

また最終章の「歴史と弁証法」はすでに「サルトル批判」としてブログ、ホームサイトに投稿している、時間に余裕のある方は訪問してください。

人が外界を理解する、その様態とは何か。外界とは森羅万象、自然、宇宙である。

人が生まれたときに宇宙は存在していた。死ぬ時に宇宙はそこにあるだろう。実はレヴィストロース名言「宇宙が始まったときに人はいなかった、終わるときに彼は存在しない」の逆もじりです。創造性の欠如は許せ。サルトルを借りると「人は宇宙を思考する運命に呪われている」。

思考は言葉であり、言葉とは外界理解の原点である。

レヴィストロースは思考と言葉の相関をソシュール言語学にヒントを得たとされる。小筆は幾度かブログ(およびホームサイト)において、ソシュールの意味論と構造主義の関連を「イヌ」の例を挙げて語っている。「野生の思考」を正しく読むにこの理解は必須なので、改めて述べる。何度かの紹介なので「知っている」の方はしばし我慢し読み通して欲しい。人がイヌを見てイヌと指さす。実体のイヌはsignifie(意味される)、言葉のイヌがsifnifiant(意味する)。言葉を通じて意味する意味される、実体と言葉に主客関係が生まれる。この関連を「signe意味」とソシュール言語学が教える。言語学としては誠に正しい。

レヴィストロースは哲学者にして人類学者であり、より深い部分から意味論を考え直した。イヌを見てイヌと言う、なぜそんな芸当が人に可能なのか。

人がイヌの思想を頭に持つ。概ねそれは四つ足、しっぽ、鼻面のワンワン吠え。これがイヌに与える人の思想となる。この思想に限りなく接近した個体が前を過ぎる、人は頭の中の思想と目の前の実体を比較し「あの個体はイヌ思想に限りなく近い」さらに「ネコでもブタでもましてサルと異なる」かく決めつけてから、自信をもって「あれはイヌ」と叫んだ。構造主義としての意味論です。

ここでの留意点は;

ソシュール意味論では実体を持つイヌなる動物が先に存在しているからイヌが主体。レヴィストロースにおいては思想のイヌ(言語学にては客体となる意味するもの)がまず人の頭に形成されて、こちらが主体に昇格する。個体のイヌ(意味される)は単なるそこらをうろつく個体、客体。

言語学での主客をレヴィストロースはかく逆転した。人が認めない限りイヌはイヌとして存在しない。これが構造主義としての意味論となります。レヴィストロースは南米Nambikwara族の毒草の豊富な語彙を調べ「毒草でない無用な草には名がない」を突き詰めた。毒草以外の草、非毒草の集合などを思想化する作業を放棄したから、思想を持たない。故にそれら「雑草」を指し示す語は存在しない。

le decoupage conceptuel varie avec chaque langue<(本書12頁)

この句は本書を読み解く鍵となる、直訳すれば「概念的裁断は言語によって異なる」。こんな訳文に満足し放置したらクセジュ文庫の難訳文の二の舞となってしまう。句の解釈を構造主義の意味論により展開すると;

「言葉が自然を概念(思想)として細分化する様、これが語を形体に対峙させる仕組みなのだが、その様は言語によって変わる」となる。より分かりやすい説明は動物界をイヌネコブタなどに裁断し、それぞれに対し思想(あるいは表象)を人が持つ。これがdecoupageなる作業。裁断する境目は言語により異なるとの指摘である。を作成した(頁2がdecoupageの解説)

意味する範囲(形式、客体)に言語が変わればずれがでる。

日本語のイヌと英語dogの裁断の境目はずれている。(古)日本語ではオオカミをイヌと言った(ヤマイヌ)。英語はdogwolfを分けている。サルに至って日本語にはサル、英語のモンキーの思想はあるが、エイプなる思想を日本語は持たない。あえてそれを訊ねれば「類人猿、あるいは猩々」。でも誰も猩々だなんて語の思想を持たない。

サルは止めて高尚に「自由」を語ろう。フランス語のliberteと日本語の自由は、意味するところの思想が正反なので、客体なる「意味される形」が全く異なる。カツ丼が喰いたいからカツ丼を食う、この行動を日本人は「自由」とする。仏人、特にカルテジアン(デカルト信奉者)なる方々は「コヤツは食欲の虜になっている、不自由な輩だ」と蔑む。ホームサイト20191130日の「カツ丼の自由はアリサの勝手でしょ」全4回にこの辺りの意味の差の指摘を掲載している。


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