部族民通信アラカルト
(webで元の頁に戻る)

食事作法の起源、番外BonSauvageはOxymore

(平成31年1月17日 令和元年5月20日加筆)


北米先住民Arapaho族「月の嫁」神話(M428、食事作法の起源177頁、出版1965年)に地上に降りた月がArapaho村落を遠望するくだりがあります。

<un vaste campement anime de bruits et d’aboiements. L’air etait embaume, la vue magnifique. Une eau limpide reflectait les arbres et le ciel. Les habitans se depensaient en jeux et en travaux divers.>>

訳;人の声、犬の吠えも聞こえる。大きく活発さが感じられるキャンプ地だった。そよ風の芳しさ、心すら奪われるすばらしい外観。湖面は透明にして樹木、山影、空の色まで清らかに反映している。賭けや遊びに熱中する者、仕事に勤しむ者、それぞれが時の経つのも惜しまぬ風情だった。


アラパホ族の娘(ネットから採取)

続いて;
<En approchant du village ou il souhaite trouver une epouse, Lune a les yeux et les orailles charmes par la beaute du paysage, les rumeurrs joueuses qui s’elevent, les chants et cris des humains et des animaux. Ce tableau embelli de la vie montre que l’idee du <<bon sauvage>> n’etait pas etrangre aux sauvages!

訳;このすてきな村で配偶者を捜す、月は決めた。近づくにつれ、さらなる美しさに目が奪われ、なにやらの響きに耳がうっとり聞き惚れた。人の声の快活な湧きたちであった。動物の吠えすらうれしげだった。運良く通りかかったおきゃん娘に恋心を抱いてしまう。
この光景は<bon sauvage>と形容できる。

そして人についても、男も女も、おきゃんですら「良い野蛮人BonSauvage」であるとレヴィストロースは語る(Origine des manieres de table177頁)>


御大にしては力のこもった数行です。力みすぎたる理由は;かつて「悲しき熱帯」で用いた表現のbon sauvageに思い入れがあるからです。野蛮に良いbonの形容詞をのせた言い回しが批判を受けた。10年を経てあの言い回し決して奇妙表現ではなかった。忍従の反論である。

「bon sauvage」の何が批判されたのか;

<sauvage>は野蛮(形)、野蛮人(名)が正しい訳。
Non domestique, sans cultive, farouche, insociable などが野蛮の属性として説明される(robert micro)。教育をうけていない、文化を持たない、残忍で社会性のない。人性の否定です。それをbon(良き)で形容している。名詞と形容詞のこんな組み合わせなんて「あり得ない」。この連結はoxymore(oxymoronとも)と規定される。文学表現であれば許される、しかるに本書は紀行文、哲学者ともあろう彼がこんな(いい加減な)表現を用いるとはと大いに批判された。

oxymoreの義を辞書に尋ねるとallier deux mots de sens imcompatible両立しない2の語を結ぶ(Robert)とあります。日本語では矛盾形容語法(白水社仏語大辞典)となります。
「悲しき熱帯」の一節BonSauvageの章(249頁)を開くと;

bororoの集落を求めマトグロッソを彷徨していたレヴィストロース、目の前に崖、足がよじり手で登り。精根尽き果てボロロ集落にたどり着くかの希望も叶わぬ、あきらめかけた時、稜線から頭一つが抜けた。
< ce vertige est tout illumine par des perceptions de formes et de couleurs; habitation que leur taille rend majestueuse…

訳;目眩に襲われたが、天啓というか、とある形と色を認めた。住まいである、彼らの技法としてはとても大きな高さ…..bororo族の村を見下ろせたのだ。そして彼らはbon sauvageだった。

この句を用いたのは1956年。世の中は未だ部族民をして論理、倫理に劣るとする風潮が強かった。これに対してレヴィストロースは文明人も未開人も、論理能力は同じとする主張を展開する。倫理にも美学的にも彼らの卓越さに言及している。
レヴィストロースにとってBonSauvageは矛盾形容ではなかった。

Arapaho村に月の神が訪問した時は神話の黄金期、幾千年あるいは幾万年の前の出来事として降臨を伝えている。幾十世紀が過ぎた20世紀、レヴィストロースがbororo村に良き野蛮人を発見した。そして彼らを良きと表現するのはoxymoreでないと力説した。

 
これもBonSauvage(縮れ髪を強調する髪型)。メリハリの効いた顔つき、若くはないが老けてもいない27~32歳ほどが青のセーターで透き通るまま出てきたらゾックとする。写真はネットから採取

食事作法の起源、番外BonSauvageとは の了 
(2019年9月15日)

(部族民通信サイトホームページに飛ぶクリック)